アパレル企業特集
2021.01.13
株式会社ワカバ
靴下デザイナーってどんな仕事?!
小さなキャンバスに詰まったたくさんのこだわりに迫る
ファッションデザインといってもその幅は広く、洋服をはじめ、服飾雑貨やインナー、シューズなど多岐にわたります。そこで今回は、靴下や服飾雑貨の企画・製造・卸売を行う株式会社ワカバの靴下デザイナーにインタビュー。どんなこだわりでものづくりをしているのか?靴下のトレンドってどのようにインプットしているのか?靴下デザインのおもしろさは何?など、靴下デザインならではの“リアル”を伺いました!
今回、この方にお話を伺いました!
デザイナー
枝松 早希さん
大学で繊維・品質系を専攻し、卒業後はアパレルメーカーからのアウトソーシングで品質検査を行う専門会社に就職。大企業を担当し、幅広いファッションアイテムの品質検査に携わる。その後、アイテムを生み出す側の仕事をしたいという気持ちから転職を決意。2013年に未経験でワカバへ転職し、靴下・雑貨デザイナーとして活躍中。
営業・企画とともに、取引先のニーズをくみとった「売れる企画」を考える
枝松さんは前職で品質検査の企業で働いているとき、ものづくりに興味がわいたとのことですが、靴下のデザイナーになった理由は何だったのでしょうか?
ファッションの世界でデザインや企画の仕事をしてみたい!と思ったものの、洋服のデザインは学校で1年程度勉強した程度の知識やスキルでは難しいだろうと思いました。そこで雑貨や小物でチャレンジできる環境を探していたところ、ワカバの求人と出会い、靴下はファッションアイテムとして好きで集めたりもしていたので、「いいな!」と興味がわきました。
今とはやや採用条件は異なり(※)、当時はデザイン経験不問だったので、応募して採用にいたりました。
※2021年現在のデザイナー求人は、Adobe Illustrator / Photoshopの使用経験が必要
アパレル業界もデザイナーも未経験からスタートし、どのようにスキルを身に付けていったのでしょうか?
毎日とにかく勉強し、実務で数をこなすことです。
靴下は、洋服のデザインとは異なり、色や柄などのグラフィックデザインがメインです。さらに、洋服よりも多くの品番を手掛けるため、スピードも求められます。まずはそのスキルを身に付けないといけなかったので、Illustratorの本を買ったりインターネットで調べたりして、自分の頭の中にあるイメージを形にするための機能を叩き込みました。
デザイナーとしては、デザインしたものを社内の色んな人に見せて意見をもらったり、先輩や同僚たちと一緒にマーケットリサーチして「こんなデザインもあるんだ!」と知ったり、色の合わせ方をを教えてもらったり、とにかくたくさんのインプットとアウトプットを意識しました。
多くの経験を積み、デザイナーとしてご活躍の枝松さんですが、現在の仕事内容を教えてください。
デザイン業務がメインではありますが、もちろんそれだけではなく、企画を進めるにあたって営業や企画との打ち合わせを行ったり、サンプル指示書を書いたり、あがってきたサンプルをチェックしたりと、さまざまな業務があります。通常は担当する取引先向けに動いていますが、年に2回の展示会のタイミングでは、平行して展示会向けの企画・デザインも行います。
また、街や店舗にリサーチに出かけたり、営業と一緒に取引先と商談したりと、外に出る時間も定期的にあります。
デザイナーの体制はどのようになっていますか?
現在デザイナーは6名おり、取引先企業ごとに担当デザイナーが付いています。企業特性に合わせて取引先1社を1人で担当する場合、複数名で1社を担当する場合、1人で複数社を担当する場合などさまざまです。
私の場合は、1人で大規模な取引先1社を任されています。営業と一緒に定期商談に参加し、毎週何らかの企画をご提案しているので、1週間サイクルで、スピード感を持って仕事を回しています。商談やご提案の頻度、デザイナーの同席などはは取引先によるため、それぞれのデザイナーが担当企業に合わせて動いています。
担当企業が婦人用、紳士用、子供用など幅広く展開している場合、どのように対応するのでしょうか?
基本的にデザイナーは婦人・紳士・子供向けなどに関わらず、取引先のニーズに合わせて何でもデザインしなければなりません。全員が幅広く何でもできるスキルを身に付け、お客さまが求めるものをご提案しています。
私は今、ベビー・キッズのアイテムを手掛けていますが、過去にはもちろん婦人・紳士向けのアイテムも手掛けていました。
デザイナー同士で一緒に仕事する機会はありますか?
2名以上でひとつの取引先を担当することもあるので、機会はもちろんあります。また、別の担当をしているデザイナーにデザインを見てもらったり、相談したりなどは日常的に行っていますし、毎週デザイナーでミーティングもしているので、それぞれ別の仕事をしていても、お互いのことを把握し、協力し合える環境です。
企画・デザインするにあたって欠かせないのが素材選びですが、こちらもデザイナーが担当するのでしょうか?
企画・営業との打ち合わせの中で選定しますが、デザイン観点のみでは決められません。
取引先によって売価設定が異なり、コストがシビアに絡んでくるため、使ってみたい素材があったとしても、原価の範囲に収まらなければ使うことはできません。売価と原価率を考えながらその範囲の中で素材を選び、営業が取引先に確認・交渉した上で決まっていきます。
新しい素材を試してみたい場合は、展示会用に企画してご提案し、興味を持っていただけたら商談に進める、という形が多いですね。
ファッショントレンド全体から、足元の提案を膨らませていく
靴下のマーケットリサーチやデザイントレンドはどのようにキャッチアップするのでしょうか?
基本的には洋服と同じで、さまざまなエリアのお店を見に行ったり、雑誌をチェックしたり、近年はSNSでのチェックも欠かせません。ワカバでは「デザイナーがアンテナを張って、色んな情報やファッショントレンドをキャッチアップして欲しい」という思いがあり、日常的に行えるリサーチに加えて、外部のトレンドディレクションを受けさせてもらったり、国内出張や海外リサーチに行かせてもらったりしています。
海外リサーチ!それはすごいですね!海外はどういった国に行くのですか?
去年はコロナ禍で行けず、最後に行ったのは2019年11月の韓国でした。また、ヨーロッパのどこかの国には毎年視察に行っています。ヨーロッパは半期ほどトレンドが早いので、コレクションが発表されてトレンドが市場に出始めたら足を運び、サンプリングとリサーチをして、持ち帰ったものをすぐ企画に落としていきます。
リサーチ以外では、中国の生産工場視察がとても勉強になりました。実際にどうやって靴下が編み立てられているのかを見ることで、こういうデザインは難しいんだな、これはこんな風に実現しているんだな、いうことが理解できました。
他にもパッケージの印刷工場に連れていってもらうなど、自分の目で見て学んだことのすべてが、企画やデザインに活かされています。
靴下のメーカーでここまでデザイナーに手厚い企業はあまりないんじゃないかと思います。
なかなかないと思います。靴下デザインのトレンドって、具体的にはどのような観点でチェックし、企画に反映するのでしょうか?
靴下だけのトレンドというよりも、ファッション全体のトレンドを掴んだ上で、足元のデザイン、素材や色、柄などをチェックしています。たとえばコロナ禍はとても分かりやすく、ファッションでも家で過ごしやすいリラックスウェアがトレンドにあがりましたよね。靴下も同様にフワフワしたボリュームのあるものや、靴下以外ではヘアバンドなどのおうちアイテムがとても売れました。
コロナ禍でファッション業界は大きな打撃を受けました。靴下のマーケットはいかがでしたか?
ビジネスシーンで着用するようなアイテムは不調でしたが、一方で先ほどお伝えしたように家で着用できるアイテムの売上が伸びました。当社は靴下を中心に服飾雑貨にも力を入れていること、幅広いテイスト・種類のアイテムを扱っていることから、不調なアイテムがあっても、別の何かが伸びれば売上全体が安定します。靴下そのもののニーズはなくなりませんから。それは当社の大きな強みだと思います。
商品の売上は企画する上で非常に重要な情報ですが、デザイナーにも共有されるのでしょうか?
共有の仕方や数値の細かさなどは担当企業によって異なりますが、何らかの形で共有されることがほとんどです。
今私が担当している取引先は、毎日最新情報を見ることができるので、どのデザインの商品がどれだけ売れたかを全部把握しています。特に売れなかったものは営業と一緒に振り返り、試行錯誤しながら次の企画に活かしています。
取引先のニーズに合った「売れるもの」を作らないといけないので、トレンド情報などに加え、売上状況をインプットすることが非常に重要です。
靴下は、人々にとってなくてはならないもの。だから試行錯誤がおもしろい。
靴下デザイナーならではのさまざまなお話を伺いましたが、「ここがおもしろい!」というポイントを教えてください!
小さなアイテムながらとても奥が深く、素材や色、柄の組み合わせで色んな可能性が出てくるところです。たとえばワンポイントの刺繍の位置をほんの少し変えるだけで売れ行きが大きく変わるんだ!とか、天然繊維のウール混の靴下ってこんなに暖かいんだ!とか、靴下のデザイナーになって初めて知ったことがたくさんあります。そういうものを作っていく上での感動は未だにありますね。
靴下は他の洋服と比べると控えめな存在かもしれませんが、ファッションを楽しむ上でも機能性においても、実はとても重要で、なくてはならないアイテムです。消費者のみなさんに楽しんでいただくための、ひとつひとつの細かい試行錯誤がおもしろくて飽きません!
そんな仕事のおもしろさがやりがいにも繋がっているのですね。
そうですね。やっぱりこだわって作ったデザインがお店に並んでいるのを見ると嬉しいですし、日々街ですれ違う人たちの中で、履いている人を見かけたときにはテンションが上がります! 最近ではSNSでコーディネートを紹介している方が着用くださっていることもあり、目にする機会はさらに増えているように感じます。
街中やスナップ写真などでつい足元をチェックしてしまうのは、この業界の「あるある」ですね(笑)。こんな風に組み合わせているのか!と、とても参考になります。
また、取引先にご提案した企画が決まったときや、展示会で出した企画が商談まで進んだときなども、日々やりがいを感じることのひとつです。特に展示会は什器にディスプレイし、POPなども作って世界観を丸ごと表現できるので気合が入りますし、そういうところでチャレンジさせてもらって、結果が出たら自信に繋がります。
枝松さんから見て、どういう方がワカバの靴下デザイナーに向いていると思いますか?
一番は、絵を描く、グラフィックデザインが好きなことだと思います。
靴下のデザインをはじめ、雑貨やパッケージなど幅広いデザインを手掛けることができるので、シンプルに「好き」「楽しい」という気持ちが、仕事のおもしろさに繋がるんじゃないでしょうか。
先ほどもお話したとおり、デザイナーとして感度を高めるためのサポートが充実しているので、色んな事に対して「知りたい!」「見てみたい!」と興味を持ち、自分から動いて情報を吸収しにいくタイプの方は、当社での仕事も合うと思います。
ただ、デザイナーの仕事は好きなデザインを描くだけではありません。コミュニケーションが重要な場面もありますし、書類作成のような業務をコツコツ進めるのも大事な仕事です。単に手を動かすだけでなく、営業、企画と一緒に話し合いながら「良いものを作りたい!」という熱意を持って、作り上げていくことができる方と一緒に働けると嬉しいです。
枝松さんの上司にASK!! 枝松さんってどんな人?!
ありきたりな言葉になってしまいますが、真面目で前向きな努力家です。
アドバイスを素直に受け取って実行に移せる行動力があり、努力ができる人。周りに意見を求めることや、そこからアップデートしていくことを面倒だと思ってしまうタイプだと、ここまで頼れるデザイナーにはなっていなかったかもしれません。
あとは、すごく負けず嫌いなんです(笑)。この仕事をしていると、自分が心から良いと思って作ったものを否定される場面も出てきます。そんなときに、「認めてもらえない」とネガティブになるのではなく、「じゃあ何が良いんだろう」と必死で考え、顧客が求めるものを探し当てていく。そのガッツは大事なことですし、とても信頼しています。
株式会社ワカバ
事業内容 | 靴下、レギンス、雑貨製造卸売業 |
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事業所 | 本社:広島市西区商工センター2丁目13-14 東京支店:東京都墨田区両国3丁目25-12 |
設立 | 1967年10月 |
代表者 | 代表取締役社長 若林 伸行 |
従業員数 | 54名(2021年1月現在) |
資本金 | 1,600万円 |