アパレル企業特集
2020.01.06
ユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)デザイナー・パタンナー<R&D>統括責任者 勝田 幸宏さんロングインタビュー<前編>
あらゆる人の生活を、より豊かにするための服「LifeWear」
ユニクロの根幹にあるファッションの本質とは何か
世界3位のファッションSPA企業、ファーストリテイリング。ユニクロはその主要ブランドとして、「LifeWear」あらゆる人の生活を、より豊かにするための服―― を世界中の人々に提案し続けています。今回は、2005年の入社以来、一貫してユニクロR&D(デザイナー・パタンナー)統括責任者として、ものづくりの根幹を担う勝田 幸宏さんにインタビュー。ものづくりの観点で変わったこと、そして時を経ても変わらないものは何か。勝田さんの“頭の中”を伺いました。
もくじ
今回、この方にお話を伺いました!
株式会社ファーストリテイリング 上席執行役員 / 株式会社ユニクロ R&D統括責任者
勝田 幸宏さん
1986年伊勢丹入社。1992年、当時伊勢丹が提携していたバーニーズ ニューヨーク本社へ出向し、メンズ・スポーツウェア、クロージング・マーチャンダイジング・コーディネーターを務める。1994年バーニーズ・ジャパンへ出向。1998年、ポロ ラルフ ローレン ニューヨーク本社へ転職。1999年、バーグドルフ グッドマンに転職、メンズ・スポーツウェア商品統括部長、2001年、取締役統括部長を務める。2005年、ファーストリテイリングに入社し、ユニクロR&D統括責任者として、ユニクロ商品の企画やデザインといった“ものづくり”全般を統括している。
ユニクロが世界中の人々にとって、個を引き立てる存在でありたい
今回は、勝田さんの頭の中…というと大げさかもしれませんが、ユニクロにおけるものづくりの変化や、逆に変わらずにいること、今のファッションに対する思いなどについてお伺いできればと考えています。
昔から自分の中にあって、最近また色んな人と話す中で考えているのが、“自分の究極のスタイル”についてです。
僕は20代のころ、伊勢丹からバーニーズ ニューヨーク本社にバイヤーとして出向していました。当時の会長 フレッド・プレスマンと社長のジーン・プレスマンともたびたびお会いする機会があったのですが、彼らのスタイルがもう格好良くてね。基本的に1年中同じ服を着ているんです。
ジーンは白いオックスフォードのボタンダウンにジーンズ履いて、ベルトはなし。足元は白い靴下にバス(G.H.BASS)のペニーローファーで、人に会うときだけ、エルメスのシャツとジャケットを羽織って、それを1年中。フレッドはブルーのピンストライプのシャツにネイビーのニットタイ、グレーのパンツ、キートンのキャメルのジャケットに、寒くなるとヨウジヤマモトの黒のコートを着て、以上。
そんなスタイルに憧れて僕も真似をしてみたのですが、どう見ても格好良さには程遠くて、何だこれって。慌てていつもの服に着替えて出勤しましたけれども。
そのとき、素敵な服はもちろん素敵ですが、着る自分自身の在り方が何よりも大事だということを痛感しました。そして、自分も服のプロとしてこの仕事をしながら歳を重ねたときに、「勝田さんってブルーのストライプのシャツにグレーのパンツ、茶色いスウェードの靴、いつもそればかりだけど、すごく格好いいよね」って言われるようになりたい、そういうスタイルを持った人間になっていたい、と強く思いました。
そのような体験を経て、僕は自分自身のスタイルを実現するために、今クローゼットのバリエーションを減らしています。たとえばユニクロの「感動パンツ」は気に入って何本も買っているのですが、毎年の改善が数センチ・数ミリといった変化になるため、同じ商品を毎年買ってずらっと並べていると、「2017年」なんて印をつけないと何年前のものか分からないほどです(笑)。
まさにLifeWearですね。
ユニクロが提唱するLifeWearの主役は洋服ではなく、その人自身。あらゆる人の生活をより豊かにし、着る人の個性を作るという考えが根底にあります。近年、自分を大事にすることや、自分を成長させるために何を選ぶかなど、個を大事にする時代になってきましたよね。我々は、今後さらに個を活かす世界に進化していったとき、世界中の人々にとって、ユニクロが一人ひとりを引き立てる存在でありたいと考えています。そのためには、誰よりもまず我々が進化し、アップデートし続けなければなりません。
ユニクロを活用して、世界中の人々にご自身なりのスタイルを表現して欲しいということですね。
そうです。自分のスタイルに合った服を選ぶ人々にとって、「ユニクロしかない」と思えるようなクオリティ、シェイプ、デザインを提案しなければなりません。今年着るブルーのシャツを5枚、パンツを5本買って、今年はこれを着回そう、というもの。毎日着るに耐えうる、研ぎ澄まされたデザインを作り出したいのです。
ユニクロって、「シンプル」「ベーシック」などという言葉で表現されることが多いのですが、実はベーシックってすごく奥が深くて、それだけで着る人そのものを表現できるほどの力を持っています。下手なシンプル、下手なベーシックを作ってしまうと、その人そのものをダメにしてしまう…というと少し大げさかもしれませんが、誰かにとってのスタンダードアイテムになるということは、それくらいの重みと責任があるのだということを感じて取り組むことが大切です。
ユニクロのすべての商品を“マスターピース”にするために必要なこととは
ユニクロは常に未来を見て進化し続けていますが、ものづくりにおける、具体的なゴールはどういったものでしょうか?
マスターピースという言葉があるでしょう。究極の完成形という意味ですが、僕たちは、ユニクロの売り場のどこに行っても、このマスターピースで埋め尽くされている状態を目指しています。マスターピースと呼ばれる商品は世の中にたくさんありますが、ユニクロがマスターピースの集合体になることができれば、それはもう無敵ですよね。
誰かにとってのスタンダードアイテムになるために、すべての商品がマスターピースでありたい…そのために必要なことは何だとお考えでしょうか?
もちろんそこにはマーケティングや販売戦略などブランドとしての総合的な力が必要ですが、商品に関してお話しますと、大きく2つあります。ひとつは濃くて深い経験や体験。もうひとつは、思考力です。
僕は最近、たとえばデザイナーという職業で例えると、キレイな絵が描けることよりも、どれだけディープシンキングができるかの方が重要になってきたと考えています。絵とは最後のアウトプット、つまりエグゼキューション(execution)です。エグゼキューションは、単に実行するというだけではなく、そのプロセスにおいて思考し、達成に向けて行動するという意味を持ちます。
そのデザインに至るまでに、どんな経験をして、何を見聞きして、それに対してどう感じたか。今それをどう捉え直し、今回手掛けるアイテムと結び付けたときに、どのように活かせると考えたのか。過去の経験や体験と、リアルタイムでインプットしている情報を掛け合わせたときに、どんな変化が起きていて、それを踏まえるとどんな未来が考えられるか。自身が持つ情報を整理し、構成していく。それが本質的なデザインということではないでしょうか。
情報が簡単に手に入ってしまう今の世の中において、ユニクロが目指す本当の意味でのマスターピースを生み出すためには、「どれだけ突き詰めて考えられるか」に掛かっています。
クリストフ・ルメールやジョナサン・アンダーソン、イネス・ド・ラ・フレサンジュ、アレキサンダー・ワン…ユニクロとコラボレーションしていただいているトップクラスのクリエイターやデザイナーとディスカッションすると、世の中のさまざまな情報やご自身の体験からどれだけのことを感じ取り、考えて突き詰めてこのデザインに至ったんだろう、と驚きます。
ユニクロも貴重なコラボレーションの機会の中でたくさんの刺激を受けて、全員でそのようなブランドにしていきたいです。
株式会社ファーストリテイリング
事業内容 | 商品企画・生産・物流・販売までの自社一貫コントロールにより、高品質・低価格のカジュアルブランド「ユニクロ」を提供する製造小売業(SPA) |
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事業所 | 本社:山口県山口市佐山 10717‐1 六本木本部:東京都港区赤坂9丁目7番1号 ミッドタウン・タワー 有明本部:東京都江東区有明1-6-7-6F UNIQLO CITY TOKYO |
設立 | 1963年5月 |
代表者 | 代表取締役会長兼社長 柳井 正 |
従業員数 | 56,523名(2019年8月31日現在) |
資本金 | 102億7,395万円 |