Fashion★シゴトNEWS
2020.03.30
パリコレへの挑戦、そしてこれから――「TAAKK(ターク)」デザイナー森川拓野さんスペシャルインタビュー
2020年1月、パリコレクションデビューを果たしたメンズブランド「TAAKK」デザイナーの森川拓野さんと、クリーデンスキャリアアドバイザーの大堀が出会ったのは、実に10年以上も前にさかのぼります。「TAAKK」もまだ生まれていなかったその頃の森川さんを、大堀は「デザイナーとして成功したいという思いに溢れていた。若さゆえの、尖りの塊だった!」と表現していました。
それから時が経ち、森川さんは、自身のデザイナーとしての思いを、どのような言葉で表現するのでしょうか。そんな話を伺いに、「TAAKK」事務所へ足を運びました。
※本インタビューは2020年2月26日に行われました。
パリコレを振り返って一番に溢れ出た感情は、関わってくれた人々への感謝の気持ち
今、森川さんに伺いたいのはなんといってもパリ・メンズ・ファッション・ウイークをご経験された感想です。いかがでしたか?
まずその前に、FPT(※)のような場で「TAAKK」で賞をいただけたのが僕にとって大きなことで、とてもとても光栄なことでした。東京都の制度を利用して、資金援助を得るという大きなチャンスをもらえたことに、まずは感謝の気持ちを伝えたいです。
パリまでの過程は、本当に大変なこと、辛いことがたくさんありましたけど、それも終わった今、振り返ってみると、やっぱり一番にあるのは感謝の気持ち。次にあるのが、世の中の長く続いているブランドさんたちへの敬意です。ブランドを続けていくことは本当に大変なことで、それを実現していることへのすごさを改めて感じました。
※森川さんは、東京都と繊維ファッション産学協議会が主催するファッションコンペ「FPT(ファッション プライズ オブ トウキョウ)」に、自身のメンズブランド「TAAKK(ターク)」でエントリー。見事受賞し、パリ・メンズ・ファッション・ウイーク期間中に単独でコレクションを発表するための資金援助を受ける権利を得た。
続けるすごさというのは、クリエイションを生み出すパワー、続けるパワーを持続させるということですか?
それもありますが、一番はお金ですね。コレクションを発表するのはとてもお金が掛かることなので。
もう一つは、評価され続けることです。良いものを作っても、それが売れなかったり続けられなかったりしたらデザイナー失格です。売れ続けて、評価され続けることが大事。どの世界もそうだと思いますが、ファッションにおいても、「続ける」ことがとても重要だと改めて感じました。
なるほど、現実的で大事なことですね。感謝や敬意を改めて感じたパリ、大変で辛いこともたくさんあったとのことですが、たとえばどんな点が大変でしたか?
そもそもの進め方を知らないことです。過去、前職のイッセイミヤケのスタッフとしてパリに参加したことはありますが、やはり自分のブランドを持っていくのとはまったく違いました。人脈をひたすら辿り、協力してくれる人を見つけたり、資金援助以外の調達をしたり、演出を考えたり、もちろんそれらと並行して根底にあるモノづくりもあって。
くだらないことで人と喧嘩してしまって、「大切な人との繋がりがこんなことになるなら、やらなきゃよかった」と思ったタイミングもありました。
ただ、終わった今はまた早くやりたい!という気持ちですね。次は次で違う壁はあるでしょうが、それを乗り越えたらまた次!となるんだろうと思います。そんな終わらないループに入ってしまいましたが、そのループに入れたことが幸せです。
コレクション自体の反響はいかがでしたか?
業界の近い距離の方々は「良かった」って言ってくださいましたが、やっと最初の扉をノックしたところなので、グローバル規模で言えばまだこれからです。
若い世代の人たちと話すことで、改めて刺激を受けたい
クリエイションの部分と、売る、つまりビジネスの部分の両立はどのようにされていらっしゃるのでしょうか?
イッセイミヤケを退職し、一人でブランドを立ち上げた時点では、モノを作る以外のことをほとんど知りませんでした。初歩的なことを言えばエクセルも使えなかったし、誰かの資本のもとに独立したわけじゃないので、お金のことも考えなきゃいけなかった。でも、自分が作りたい服を作って生きていくなら、デザイン以外のことも必死にになって覚えざるを得ませんから。
デザイナーを夢見ていながら、なかなかその一歩を踏み出せない若者もたくさんいると思います。
思い切ってその状況にしてしまえば、なんとかなるものです(笑)。
最近、若者っていいなってすごく思うんです。僕は、経験を積むことで得られたことがたくさんある一方で、モノづくりの側面で言うと、見えなくなったものもあるなあと思っていて。だから、若さならではの葛藤と向き合っている人からすごく刺激を受けます。一回り以上違うインターン生や、コレクションに参加してくれたモデルさんたちと話をしていると、忘れていた当時の感覚を思い出させてくれる。それがすごく楽しいです。
経験を積むことで、違う視点は生まれてくるでしょうね。
すぐ理論立てて話しちゃうんです(笑)。僕自身が若いころ、そういうスタンスで話してくる目上の意見に反発していたのに、気付いたらそういうことを言いがちになっていて…。若者たちと話す中で、「そういう感覚、忘れてたな」と思い出しています。
普段は同じ業界の方々との付き合いが多いのですか?
意外とそうでもないんです。もちろん、ファッションを仕事にするにあたって影響を受けてきた方々にはすごく会いたいですが、同世代においては、どちらかというと外を向いて、全然違う仕事をしている人たちと話をするのが楽しいです。
最近仲が良いのは、陶芸家や、7代続くしらす屋さんの社長。お互い知らない世界のことを知り合えるのって、すごくワクワクしませんか?その方が、僕なりの刺激で、僕なりのクリエイションが表現できる気がするんです。
賞を取るということは、自分を信じてくれる人がいるということ
「TAAKK」にインターンで来ている学生さんがいらっしゃるそうですが、森川さんから見ていかがですか?
インターン生は、母校の文化服飾学院の先生に相談して、興味ある学生さんに来てもらっています。今年度、最後まで残ってくれたのは、パリでのコレクションを手伝ってくれた一人だけでした。今っぽい若い感性を持っていて、デザイナーとしての魅力ももちろんありますが、それよりも僕がいいなと思ったのは、すごく根性があって頑張り屋なところ。人として、一緒に仕事をしていて気持ちがいいんです。
途中でインターンを辞めてしまうのは、過酷な世界についていけなくなってしまうのでしょうか。
それもあると思いますし、最近だと学校との両立で時間が限られる、という理由もよく耳にします。
働き方改革と言われる時代ですから、根性論では続かないことは理解しているつもりです。それでも社会に出たら理不尽なことがたくさんあるし、踏ん張らないといけないこともある。本気でデザイナーになりたいなら、色んなことを乗り越える力は絶対に必要だと僕は思います。
そのためには、学校で良い成績を取ることだけではなく、早い段階で社会に揉まれてみる、学校で誰もができることではない経験をしてみる、という挑戦をしてみて欲しいですね。
森川さんの場合、インターンの方にはどのようなことをお願いしているのですか?
多くは雑務というか、僕の手伝いですね。以前は何人ものインターン生に手伝ってもらっていましたが、少し前にシステムを入れて、劇的に雑務が減ったので、今は1名でも回るようになりました。
「今どきの若い子は」っていう言葉あるでしょう。僕もこの歳になって、若い世代をから刺激を受ける一方、「今どきの…」と思うこともあります。でも、僕らが若かったときには、さらに上の世代が僕らにそう思っていたんだろうな、とも思うので、きっと繰り返しなんでしょうね。なので僕は、今の時代から生まれてくる若いデザイナーのクリエイションを楽しみにする気持ちを持っていたいです。その方が、自分も頑張らなきゃって思いますから。
そのようにモチベーションを維持し続けられる秘訣はなんでしょうか?
なかなかずっと同じモチベーションでいるのは難しいですね。たまに折れていますよ(笑)。
たとえば今も、業界が縮小している、新型コロナでマーケットが動かない、景気が悪い、オリンピックのあとどうなるんだろう…そんな考え方になってしまうと、立ち止まってしまいますよね。
「TAAKK」を立ち上げてからの8年間を振り返ってひとつ言えるのは、自分が苦しいとき、悩んでいるとき、このままで大丈夫か不安なとき、そこで止まらずに抜け出したい!とあがき続けたら、そういうタイミングでいつも賞を取ることができたんです。それは僕にとって大きな支えになってきました。
良いタイミングでの受賞…引き寄せる力がすごいですね!
賞を取るとって、どういうことだと思いますか?僕は、自分を信じてくれる人がいるということだと捉えています。そう思えば自動的に顔が上を向く。モチベーションが続いているように見えるとしたら、それを地道に繰り返しているということだと思います。周りの人々に、「これからまた伸びたところを見せますよ」っていうね。
苦しいことはたくさんありますけど、それがあるから立ち止まらず頑張らなきゃって思えますよね。
デザイナーとしてクリエイションを続けたそのはるか遠い先で、
今の僕が知らない、もっと素晴らしいことが起きて欲しい
森川さんには、「ここに向かって」という具体的なゴールはありますか?
今いるところから遠くにいくための細かい目標はいろいろあります。
僕はデザイナーなので、根底にあるのは服です。よいモノがないと、誰も寄ってこない。なので、パリを終えて当面の目標は、いい服を作ること。それがデザイナーとしてまずやるべきことだし、自信にもなる。クリエイティブでありながら、ビジネスになるモノづくりと、真摯に向き合っていきたいです。
その遠い先にあるのが本当の目標であり、ゴールなのですね。
その通りではあるのですが、その「はるか遠いところ」を“目標”と言ってしまうと、今の自分が知っている範囲にしかならない気がしていて。僕はこの先、今の僕が知らない、もっと素晴らしいことが起きて欲しい。だから、はるか遠いところがどうなっているか、どうなっていたいかはまだ分からないんです。
少なくとも、そこにたどり着くために今することは、「僕にしかできない服を作る」、そして「会社を継続させる」この2つです。
今の自分が知らない、もっと素晴らしいことが起きて欲しい…すごくワクワクしました!これからの森川さんの発表をすごく楽しみにしています!それでは最後に、今ファッションの世界で頑張っている方々、そしてこれから飛び込もうとしている若い世代の方々に向けて、一言メッセージをお願いできますでしょうか。
僕は企画職からこの世界をスタートして、でも本当はずっとデザイナーになりたかった。デザイン以外のことは知らなかったけど、思い切って飛び降りたら、デザイナーになれました。
だから僕は、人それぞれ何でも良いので、「○○になりたい」というものを持っていて欲しいです。就職活動して、会社に属して、そこで何かを発揮していくのもひとつの選択肢だし、それだけがすべてではないとも思う。クリーデンスさんのような紹介会社を使っても、「これがやりたい」という思いがなければ、きっと何にもなれないと僕は思います。
なりたい自分を持って、そうなれるように頑張って欲しい。それがすべてですね。
森川さんもイッセイミヤケから独立される前、転職という道も考え、クリーデンスにご登録いただきました。
あのときは若かったから、色んなことに強い思いを持ちすぎて、転職活動をしてみたものの、どこも受かりませんでした(笑)。独立することを決めて、当面のお金を稼ぐために業務委託で仕事を紹介してもらって、そんなスタートでしたね。
「受からなかった」という事実だけ見るとネガティブに聞こえますが、ご自身でやりたいことがあって、それが企業のニーズとお互いに合致していなかったのだと思います。森川さんのやりたいことは、しっかり伝わっていましたから。
少なくとも僕のやりたいことは企業のデザイナーではなかったということですね。今は自分で立ち上げた小さい会社ですが、自分のクリエイションを自由に、やりたいことができています。
妻もデザイナーなので、お互いに感性をぶつけ合えるし、理解もしてくれる。支えてくれる人たちがたくさんいて、本当に恵まれているなあと思います。そんな中で次の挑戦ができるのが楽しみです。
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