アパレル企業特集

2016.02.19

株式会社アダストリア

新生アダストリアが目指す理想の生産環境とは?

どの企業でも当たり前のように導入している商社・ODM・OEMを活用したものづくり。当時のポイント社は、その手法をいち早く取り入れて驚異的な成長を見せました。しかし成長の裏では商品の同質化やものづくり基盤の脆弱化という課題も残し、それを危惧した会長の福田氏が2010年に掲げたのが「チェンジ宣言」でした。ものづくりの原点に立ち返ろうという思いのもと、ニコアンド、スタディオクリップなどを有するトリニティアーツやOEM企業であるナチュラルナインとの統合など組織改革を重ね、ついに2015年、3社が統合して現体制である株式会社アダストリアが誕生しました。
今回はその成長を支える生産本部より、上席執行役員 生産本部長 大屋 守さん、生産本部 副本部長 兼 GLOBAL WORK 生産部長 杉田 篤さん、生産本部 GW生産部 GW生産チーム マネジャー 三原 五都生さん、生産本部 GW生産部 GW生産チーム 中村 直樹さんにお話を伺ってきました。
さまざまな組織改革を重ねたアダストリアの「今」を、ものづくりの観点からお届けします!

MDやデザイナーと席を並べ、「攻め」の生産にチャレンジする

おふたりとも、入社のタイミングは少し違いますが、大きな組織改革を行っている過程でのご転職となりました。どんな思いでアダストリアへの入社を決めたのでしょうか?

三原:僕はもともと統合前の組織で内定をいただいていたのですが、ちょうど入社直前にグループ統合の話が出て、すごく良いタイミングで入社できたなと感じました。

それはどういう点が?

三原:当時僕は、他ブランドとの同質化だったり、為替の影響で生産環境が厳しくなったり、色んな要因で洋服を作ることのおもしろさが見いだせなくなっていました。でも洋服には関わっていきたいし、と考えたときに、一からやり方を見直し、創り上げていくマインドに切り替えていかないといけないな、と思ったんです。
そんな中での統合の話だったので、もがきながらも新しい形を創っていこうとしているアダストリアの考えにすごく共感しましたし、ここでしかできない仕事がしたいと強く思ったのを覚えています。

実際にご入社されてみてどうですか?

三原:ものづくりに対する考えが変わりましたね。OEM企業の場合は「取引先から提示された値段の中で作れるものを提案する」というスタンスで、たとえば何か思いを持って提案してもできないことがよくありました。
当社では、MDやデザイナーと机を並べて、誰に対してどういうものをどのタイミングで作って店舗に並べるのか、というマーチャンダイジングのところから共有されるので、たとえば「原価は少し上がるかもしれないけど、この素材でこの着心地を実現したい、では上代をいくらに設定すれば売れる?」など、ディスカッションしながら自分たちで判断して進められるようになりました。商品の幅や可能性も広がりましたし、本来あるべき姿でものづくりができています。

あくまで「企業」が取引先であるOEM企業と、小売まで一気通貫で行っているSPA企業の大きな違いですね。

三原:はい。ただOEMイコールお客さまを見ていない、ということではありません。ただビジネスの構造上、どうしても自分の意思が反映されるところや権限が限られてしまうので、受け身にならざるを得ないことが多い、というのが正しい解釈だと思います。僕もそうでしたが、もともとは「あんな商品を作りたい」「こんなものづくりをしてみたい」と色んな思いを持ってこの業界に入ってきたけど仕事に活かせていない…という方がいらっしゃれば、アダストリアはすごく合うと思いますよ。

中村:先日、店舗応援に行ってきたんですけど、バックルームに入って店長と話をして、自分が手掛けた商品についても意見をもらって、販売現場の空気を肌で感じることができたんです。僕も店舗出身ですが、やはり店舗にしかない空気、店舗でしか手に入らない声があって、それはものづくりの人間からすると宝のような情報なんですよね。現場の空気を持って帰って生産という立場でものづくりに反映させる、そういう仕事の仕方におもしろさを感じられる人にとっては、もうやりがいだらけの環境だと思います。

中村さんはご入社されて感じたことはありますか?

中村:僕は「攻めの生産」にチャレンジしたくてアダストリアに入社し、それを実感しつつあります。そもそも生産管理という仕事自体、納期や品質を守って、コスト削って…と、ものづくりの工程の中でも固いというか守りのイメージを持つ人が多い気がしますが、それだけでではないプラスアルファ仕事にこそ面白さがあるんじゃないかと思っていて。

例えばアダストリアではどんな「攻め」ができるでしょうか?

中村:売れる商品を考えるとき、マーケティングからアプローチするのがMDの仕事なら、ものづくりからアプローチするのが生産の仕事です。
たとえば工場や現場に足を運ぶと「おっ」と思うような素材や生地、商品と巡り合うことがあるんですが、そこからインスピレーションを膨らませて、「こんな素材を見つけたんですけど、幾らくらいで作れるからこんな商品どうですか?」と提案をしていくこと。また、すでに販売している商品がヒットしたときに工場と交渉してベストなタイミングで追加生産の提案をすること。
そういう仕事は僕たちにしかできないですし、アダストリアは色んな裁量を現場に任されているので、自らMDやデザイナーに呼びかけて、形にしていくことができるんです。


共感を重ねていくことで距離を縮め、信頼関係を構築する

通常、どのような流れでものづくりをしているのかお聞かせください。

三原:MDが販売計画を立ててデザイナーが企画、生産管理が最適な工場と交渉してバルク生産を行い、各店舗に届ける、という流れで、基本的には一般的なSPA企業と同じです。以前は生産機能はグループの別組織や商社が担っていましたが、現在は企業が統合され、生産機能も含めて自社内で大半を行っています。

自社以外に商社による生産も行っているのですね。

三原:はい、一部は外部の商社やOEM・ODM企業にご協力いただいています。ブランドによって割合は違いますが、どの程度の商品を自社で行うかを検討するのも生産MDの役割のひとつです。

工場とのコミュニケーションはどのようにされているのですか?

三原:海外工場なので、主にはやっぱりメールや電話ですね。あとは定期的に出張して現地で顔を合わせて直接話すこともしますし、先方が日本に来てくださることもあります。

出張はどれくらいの頻度で行っているのですか?

三原:ブランドや状況によっても違いますが、僕は2ヶ月に1回くらいの頻度で中国に、あと年に2回ほどはASEANにも行きます。頻度に関して決まったルールはなく、その状況に応じてベストなコミュニケーションを判断し、進めています。

中村:海外出張って色んな側面があって、たとえばスケジュールなどビジネスライクな話をするだけでなく、出来上がった商品のカタログを持って行って見せたり、売れ筋の商品を伝えたりすると、すごく喜んでくださるんです。国や言葉は違えど、自分たちの作ったものが売れていることを一緒に喜ぶ、そういう共感を重ねていくことにすごく意味があって、距離を縮めていくことで間違いなく良い商品が上がってくるようになります。

三原:そうそう、出張って、その距離感をつないでいく、感覚を近づけていくためのやりとりが重要ですね。以前はなかなか電話やメールでは伝わらなかったことが、一度出張して話をすれば、その後は電話越しでも伝わるようになる、それを重ねていった先に良いものづくりがあると感じています。

他ブランドとのやりとりはありますか?

三原:それはもう常にあります。何かを思いついたり煮詰まったりしたらフラっと話しかけに行くくらいの気軽さで。一番多いのはやはり生産MD間で、こういう事例があったよ、こんな素材を見つけたよ、と、ブランドを超えた情報交換をしています。これは様々なテイスト・コンセプトのブランドを多数持っているアダストリアの強みで、話せば話すほどノウハウが溜まっていくのが良いですね。

中村:逆に決まったMTGがあるわけではないので、自分でどんどん動いて社内ネットワークを広げていかないといけません。僕は入社間もなく、まずはグローバルワークというブランドの中で仕事を作っていくことをまずは重視していたので、ブランド間でのコミュニケーションはこれからですね。


無限にある可能性のどんなことにもチャレンジできるように

今後目指していることやキャリアについてお聞かせください。

中村:まだ具体的にこんなキャリアを、というわけではありませんが、これから生産環境を構築していくという大きなチャレンジの中で、ここでしかできない様々な経験を積むことが、そのまま成長に繋がるという手ごたえはあります。ここまでの規模の企業でありながら、現場の人間を中心に組織を作っていける企業って、日本でもアダストリアしかないんじゃないでしょうか。

三原:今の体制になって間もなく、アダストリアの生産本部として今後どういうポジションが必要かは、これから作っていくことになると思います。ですのでどんなキャリアの可能性もあると思っているのですが(笑)、たとえば僕の視点から見ると、まず海外拠点で現地を取りまとめるスタッフがもっと必要ですし、ASEANも含めたさらなる工場開拓をするスタッフも必要です。
そのためにはもっともっと世界の情勢を知らなければなりません。為替もそうですし、現地の方々の労働環境など、国の事情や文化なども踏まえた上で、「このアイテムはこの国のここの工場にこれくらいお願いすればベストだね」といったことを効率よく判断していくことが必要になってくると思います。
今後どんな可能性が出てきたときにもチャレンジできるように、今の仕事の中で一つひとつを意識して取り組んでいきたいですね。

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株式会社アダストリア

株式会社アダストリア

事業内容 衣料品・雑貨等の企画・製造・販売
事業所 本部:東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウ サウスタワー10F
設立 1953年10月22日
代表者 代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)福田 三千男
従業員数 正社員4,852名(2015年2月現在)
資本金 26億6000万円

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